Text & Pix ◆ 奥村裕司/Yuzi Okumura

大酒呑み&海賊マニアならずとも…みんな大好き、英スコットランド出身のパイレーツ・メタラー、ALESTORM。先ごろニュー・アルバム『THE THUNDERFIST CHRONICLES』をリリースし、世界中のファンを歓喜させている彼等は、その少し前──去る5月に来日公演を行なっていた。彼等が日本でライヴを行なうのは、’14年、’19年に続きこれが3度目。ただ、前回は“Evoken Fest”、前々回は“Pagan Metal Alliance”と、いずれもフェス/イヴェント出演だったから、単独来日はこれがお初。今回は東京で2公演、大阪で1公演が行なわれたのだが、ここでは前者2公演の模様をお伝えしよう!

現バンド・ラインナップは、首魁クリストファー・ボウズ(vo,key)以下、’15年加入のマーテー・ボドール(g)、’09年加入のギャレス・マードック(b)、’10年加入のピーター・アルコーン(ds)、’12年加入のエリオット・ヴァーノン(key,vo)という5名。最も歴の浅いマーテーも既に10年選手のため、メンバーの結束は固い。2~3月のオセアニア・ツアーには帯同していたハーディ・ガーディ奏者、パティ嬢の不在については非常に残念であったが…。





彼等のライヴは、常におバカなノリの“fun”な空気に満ち、いつ何どきもオーディエンスはみんな笑顔ではっちゃけまくり。腕を振り上げ、盃を掲げ、ピョンピョンン飛び跳ねながら、サビやキメを全力で歌い、叫び、もしモッシュが起こっても、実に平和そのもの。多くの楽曲がシー・シャンティを下敷きにし、言わば“海賊メロディ”が満載で、フォーク・テイストが濃いかと思ったら、ラップ調になったり、アグレッシヴ&エクストリームに振れたり、めちゃポップに踊れる曲、ゲーム音楽でレイヴ…ってな瞬間が多々あるのもALESTORMならではだ。よって、メタル・ファン以外も沢山ライヴに詰め掛け──あと毎回、外国人率が高いこともよく知られているだろう。

しかしながら、観客の大熱狂お祭り騒ぎとは裏腹に、トレードマークのキーターを抱えながら歌うクリストファーは、フレンドリーではあるものの、毎度ヤケに淡々としたユルい感じで…。いや、決してノリが悪いハズもなく、元々そういう人を食ったキャラだというだけで、いつも眠そうに見える目の奥では、虎視眈々と「どうやって笑かしてやろうか…」と思案しているに違いない。実際、派手に観客を煽ることもあるし、マーテーやギャレスとふざけ合ったり、コミカルなフォーメーションを組んだり、変顔したり、突然ヘンなアクションを繰り出したりもするし。

マーテーとギャレスは、どうしてもマイク・スタンドの前に釘付けになってしまうフロントマンに代わって、ステージ上を行ったり来たりと動きまくり。2人とも常時オーディエンスに向き合い、時に変顔も交えながら、どんどんノリを引き出し、それを増幅させていく。とはいえ、煽ってばかりということもなく、「ジョギング中?」ってな出で立ちのマーテーは、随所で隠れ巧者っぷりを見せつけるかのように、流麗にシュレッド含むソロを劇的にキメまくってくれるから油断は出来ない。

セカンド・ヴォーカルとして、随所で禍々しいスクリームを担当するエリオットは、演奏中もグビグビとビールを呑みまくり。そういえば、随分と髪が短くなってて、一瞬誰だか分らなかった…というか、「メンバー・チェンジしたの?」とさえ思ったが、絶叫コーラスですぐに彼だと理解した。彼も後方から常に観客を煽っており、基本鍵盤の前から動けないのに、しっかりムード・メーカーとしての役割を果たしているのは頼もしい限りだ。そんな中、唯一おフザけナシで終始プレイに徹するのがドラムスのピーター。いや、彼がしっかり土台を支えてくれているからこそ、他のメンバーは好き勝手に暴れ回ることが出来るのだろう。

どの曲も大騒ぎするのにピッタリなALESTORMだが、中にはしっとり聴かせる曲もある。港町の裏酒場といったイメージの「Nancy The Tavern Wench」(’08年『CAPTAIN MORGAN’S REVENGE』収録)はその筆頭だ。但し、この曲では船漕ぎモッシュが大発生! ヴァイキング・モッシュ、ローイング・モッシュとも呼ばれるそれは、モッシュとはいうものの、全員フロアに座り込んで、オールを漕ぐ動きでまったり楽しむという独特のノリが何とも平和的ではあるものの、まぁ“しっとり”とはいかないのがALESTORMのALESTORMたる所以である。一方、そのまんまズバリ「P.A.R.T.Y.」(’22年『SEVENTH RUM OF A SEVENTH RUM』収録)なんて曲もあり、両日アンコールで披露された「Fucked With An Anchor」(’17年『NO GRAVE BUT THE SEA』収録)では、バンドも観客も愉し気に中指を立てまくり!

酔っ払いどもが勢い余ってフロアに酒をこぼすことはままあるが、誰も気にしていないし、それこそ呑んでなくても何故か酔っぱらっているような気分になってくるぐらい。唯一、「怖っ」と思ったのは、みんながジャンプすると床がかなりたゆんだ時。あ~でも、「あれ…揺れてる? かなり酔ってるな~」とか勘違いした人もいる…かも?


日本でのライヴならでは…という点では、全公演でオープニング・アクトを務めたJAPANESE FOLK METAL(JFM)の存在が大きい。長年交流を深めてきたクリストファーと彼等は、互いのアルバムにゲスト参加する関係で、今回は最新アルバム『THE THUNDERFIST CHRONICLES』からの先行シングル「Frozen Piss 2」で、初の生コラボが実現した。来日の10日ぐらい前──4月下旬にMVが公開されたばかりだったこの曲は、世界に先駆け東京公演初日にライヴ初披露。その際は、JFMの歌姫(町娘?)佐々木詩織が不在だったため、中間部日本語詞パートは同期音源を流し、JFMの男どもが賑やかしで出てきただけだったが、翌日には自身で見事に生再現し、大いにフロアを沸かせたのだった。

ちなみに彼女は、「Zombies Ate My Pirate Ship」(’20年『CURSE OF THE CRYSTAL COCONUT』収録)と「Voyage Of The Dead Marauder」(同名EP収録)でパティが歌った女声パートも、(やはり2日目のみだが)JFMの町娘コスで生再現。実はその前の「Wooden Leg!」にも、クリストファーに“Japanese Busters!”と呼び込まれ、JFM全員で乱入していたとはいえ──それらが「Frozen Piss 2」よりも先に演奏され、言わば自分の持ち曲での“本人登場”というサプライズ感がやや薄れてしまったのは、少々残念ではあったが、まぁそれも些細なことか。あとJFM絡みでいうと、両日とも(&大阪でも?)彼等のステージにクリストファーが飛び入りし、コラボ曲「うらめしや」での初生共演が実現したことも付け加えておこう。


東京両日のセットリストは、一部日替わり(下記参照)。とにかくエンタメ要素がテンコ盛りのALESTORMだからして、他にも定番の見せ場は幾つもある。序盤から「Mexico」(『NO GRAVE BUT THE SEA』収録)では、クリストファーとマーテーによる禁断の“愛の営み(?)”パフォーマンスが炸裂するし、いつも恐ろしいぐらいに盛り上がりまくる“fun”度150%のカヴァー曲「Hangover」(’14年『SUNSET ON THE GOLDEN AGE』収録。オリジナルはタイオ・クルーズ feat.フロー・ライダー)では、ラップ・パートでお馴染み鮫男が乱入し、ひとしきりまくし立てたあと、マーテーの頭にガブリと噛み付くのも、もはや恒例中の恒例となっている。


そうして──約90分が驚くほど短く感じられた極上ショウは、「Fucked With An Anchor」からの最速・最短曲「Rumpelkombo」(’11年『BACK THROUGH TIME』収録)にて、賑々しく幕を閉じた。アウトロとして『ウォレスとグルミット』のテーマが流れる中、観客みんなが心地好い疲労感と共に満面の笑顔を浮かべていたのは言うまでもない。
最後に──そういえば気になっていたことがもうひとつ。今回ステージ上には、バンドのマスコット・キャラクターとも言える巨大なアヒルちゃんがいなかったのだ。’19年来日時にはちゃんと(?)いたので、そこも残念と言えば残念。まぁ、クリストファーのキャップには、ミニミニ・アヒルちゃんがくっついてはいたが…。次回来日の際は、是非とも一匹と言わず大小取り揃えて三匹のアヒルちゃんがステージに鎮座ましましていますように! あ…あと、パティ・ガーディも一緒に来てくれたら、さらにさらに嬉しさ倍増間違いナシ!!
今回の来日から1ヵ月とちょっとで新作がリリースされたことで、同作に伴う再来日が早くも期待されているALESTORM。今からラム酒やビール(エール)をガブ呑みしまくって、次なる海賊パーティに備えようではないか…!!

[SET LIST:04/05/25@渋谷WWWX]
1.Intro(SE)~Keelhauled 2.No Grave But The Sea 3.Mexico 4.Under Blackened Banners 5.The Sunk’n Norwegian 6.Alestorm 7.1741 (The Battle Of Cartagena) 8.Hangover(Taio Cruz) 9.Fannybaws 10.Zombies Ate My Pirate Ship 11.Magnetic North 12.Frozen Piss 2 13.Nancy The Tavern Wench 14.Uzbekistan 15.P.A.R.T.Y. 16.Captain Morgan’s Revenge 17.Shit Boat (No Fans) [Encore]18.Drink 19.Wooden Leg! 20.Fucked With An Anchor 21.Rumpelkombo 22.Outro:Wallace & Gromit Theme(SE)
[SET LIST:05/05/25@渋谷WWWX]
1.Intro(SE)~Keelhauled 2.Shipwrecked 3.Mexico 4.Under Blackened Banners 5.The Sunk’n Norwegian 6.Alestorm 7.Hangover(Taio Cruz) 8.Wooden Leg! 9.Zombies Ate My Pirate Ship 10.Voyage Of The Dead Marauder 11.Frozen Piss 2 12.Nancy The Tavern Wench 13.Uzbekistan 14.P.A.R.T.Y. 15.Captain Morgan’s Revenge 16.Shit Boat (No Fans) [Encore]17.Drink 18.Wenches & Mead 19.Fucked With An Anchor 20.Rumpelkombo 21.Outro:Wallace & Gromit Theme(SE)