Report●Kiyoyuki Watanabe
Pix●Yuzi Okumura

英国ゴシック/ドゥーム・メタルのパイオニア、MY DYING BRIDE。’90年代初頭にPARADISE LOST、ANATHEMAと並んで“The Peaceville Three”と称されジャンルの礎を築いたが、その中で唯一、ここ日本の土を踏んでいないのが彼等だった。そんなまだ見ぬ大物状態だったMY DYING BRIDEの来日公演が、結成35年目にして、ついに実現! ゴシック/ドゥーム・ファンにとっては歴史的イヴェントとなった。

実は、MY DYING BRIDEは、昨年4月に最新14thフル『A MORTAL BINDING』を発表した後、オリジナル・メンバーとして残っている2人、アーロン・スタインソープ<Vo>とアンドリュー・クレイガン<G>との間に意見の食い違いが発生していた。そのため、新作に伴う’24年のツアーは全てキャンセルされていたのだ。この問題は解決されないまま、バンドはアーロン抜きでのツアー再開を決定。アーロンに代わるライヴ・シンガーとしては、フィンランドのゴシック・メタル・バンド、SWALLOW THE SUNのミッコ・コタマキが起用されることとなった。

バンドにとって今回のツアーは、初の来日公演というだけでなく、初のアジア(&オセアニア)・ツアーでもあった。中国、オーストラリア、日本、韓国の順で全7公演が行なわれたのだが、なんとその中で、ここ日本のみサポート・アクトとしてSWALLOW THE SUNが帯同。ゴシック・メタル・ファンにとっては嬉しい、お得なカップリング公演となった。
SWALLOW THE SUNは’12年の“FINLAND FEST”、’19年の“SUOMI FEAST”に続いて、今回が3度目の来日。それを受けてか、今回セットリストの多くは、昨年発表の新作『SHINING』から選曲されていた。この新作は、3~4分台のコンパクトにまとめられた曲の中で歌メロを強調するという、これまでの彼等の作品群と比較すると、非常に親しみ易い作風となっていた。そのため、海外では多少の賛否を巻き起こしていたが、今回のライヴにおいては、バンド側の新作に対する絶対的な自信を強く感じさせてくれた。とくに、1曲目に演奏された新作のオープニング・トラック「Innocence Was Long Forgotten」と、中盤に披露された「MelancHoly」は、今後彼等のライヴ定番曲になる可能性も秘めているだろう。一方で、ひたすらグロウルするヘヴィな「Descending Winters」(’05年『GHOSTS OF LOSS』収録)や、中期KATATONIA的ギターによって牽引される「These Woods Breathe Evil」(’09年『NEW MOON』収録」)もしっかりと演奏されたので、旧来のファンにも納得のいくショウ構成だったろう。

新曲を中心に構成されたSWALLOW THE SUNと対照的に、MY DYING BRIDEのセットは、そのほとんどが’90年代から’00年代初頭にかけて発表された──つまり、長年のファンが四半世紀にわたってライヴでの演奏を待ち侘びていた楽曲のオン・パレードとなっていた。
鎮魂の鐘のSEに導かれてるようにして登場したメンバーは、上手にニール・ブランシェット<G>とレナ・アベ<B>、下手に唯一のオリジナル・メンバーとなったアンドリュー、その後方にキーボード兼ヴァイオリン奏者のショーン・マクゴーワン、そしてドラムスのダン・マリンズという位置取り。






レナが聴き覚えのあるベース・ラインを弾き始め、「A Kiss To Remember」(’96年『LIKE GODS OF THE SUN』収録)からショウはスタートする。2ステージ連続での登場となるヴォーカルのミッコは、SWALLOW THE SUNの時に着ていたノー・スリーヴのフーディを脱いで、ニット帽にタンクトップという出で立ちになっていたが、パッと見の印象は、前ステージとほとんど変わらない。

歌唱においては、クリーン・ヴォイス・パートは、かなり意識的にアーロンに似せているようで、ミッコ自身のオリジナリティを主張するのではなく、あくまで代役という立ち位置に徹しているように見受けられた。それ自体はとても好ましく感じられたが、音量的には、ちょっと遠慮し過ぎだったかもしれない。楽器陣、とくにリズム隊の迫力ある音に埋もれて、聴き取りづらくなってしまう場面も散見された。
ただ、そういった代役ゆえのハンディを差し引いても、ライヴ自体はとても充実したものだった。メンバーは誰一人として派手なパフォーマンスをするわけでもなく、むしろ淡々と演奏をコナしていくのだが、その迫力ある音量によって、デス/ドゥームの獰猛なルーツが剥き出しとなり、これぞオリジネイターという存在感を確認させてくれた。

この日一番の盛り上がりを見せたのは、なんといっても、中盤に披露された「The Cry Of Mankind」(’95年『THE ANGEL AND THE DARK RIVER』収録)だろう。上手のニールがタッピングによる印象的なフレーズを弾き始めた途端、ひときわ大きな歓声が上がった。たった6音のシンプルなリフレインにもかかわらず、永遠に聴いていたくなる魔性の魅力をもっている。また、そのある種のミニマリスティックな魅力を下支えているのが、リズム隊の牽引力にあると改めて認識させられた。現在のリズム隊であるレナとダンの2人は、ともに’07年に加入。ダンの方は一時期脱退するも、ツアー要員やセッション・ミュージシャンという形を合わせれば、十数年にわたってバンドにかかわり続けている。レナにいたっては、オリジナルのアンドリューを除けば、既に最古参のメンバーだ。彼等の貢献は決して小さくないだろう。



この他、これまた印象的なベース・ラインから始まる「From Darkest Skies」(’95年『THE ANGEL AND THE DARK RIVER』収録)、ライヴ演奏するのは’17年以来で、久々だという「The Snow In My Hand」(’93年『TURN LOOSE THE SWANS』収録)、バンドにとって中興の名曲と言える「She Is the Dark」(’99年『THE LIGHT AT THE END OF THE WORLD』収録)などが演奏され、全10曲約70分をもってショウは幕を閉じた。アンコールを求める声は鳴り止まなかったが、やはり代役ヴォーカルでこれ以上の曲を用意するのは難しかったのかもしれない。ちなみに、直前のオーストラリアのショウにはもう1曲、新作からの「The Apocalyptist」が組み込まれていたが、これは残念ながらカットされていた。

旧曲を中心に構成されたセットは、結成35年目にして初の来日公演という意味を考えれば、目論見どおりの大成功と言えるだろう。しかしそれでも、実はまだまだ足りないのだ。彼等のレパートリーの中には、演奏すべき楽曲がたくさん残っている。「The Thrash Of Naked Limbs」(’93年EP『THE THRASH OF NAKED LIMBS』収録)、「Your River」(’93年『TURN LOOSE THE SWANS』収録)、「A Sea To Suffer In」(’95年『THE ANGEL AND THE DARK RIVER』収録)…と、数えだしたらキリがないほどだ。
そもそも彼等の楽曲は、1曲当たりのプレイング・タイムが長いので、1回のショウのうちで「あれも聴きたい」「これも聴きたい」と願っても無理がある。ならばやはり、これから何度でも来日ツアーをやってもらわなければならない。そしてその時には、是非アーロンが復帰した編成でのライヴを望もう。そうすれば、今回のミッコを含んだ初来日公演の希少価値も、また上がるというものだ。
(※追記:つい先ごろ、残念ながらアーロンの脱退がアナウンスされた…)

[SET LIST:19/09/25@渋谷DUO MUSIC EXCHANGE]
SWALLOW THE SUN:1.Velvet Chains(SE) 2.Innocence Was Long Forgotten 3.Descending Winters 4.New Moon 5.Under The Moon & Sun 6.Charcoal Sky 7.MelancHoly 8.Falling World 9.These Woods Breathe Evil 10.Swallow (Horror Pt.I) 11.Outro:Varjojen Yoö@Topi Sorsakoski & AGENTS(SE)
MY DYING BRIDE:1.SE~A Kiss To Remember 2.My Hope, The Destroyer 3.Like Gods Of The Sun 4.The 2nd Of Three Bells 5.From Darkest Skies 6.The Cry Of Mankind 7.The Snow In My Hand 8.Feel The Misery 9.She Is The Dark 10.The Raven And The Rose