Posted On 2026年3月29日

スペシャル・コラム:奇跡の来日? DESTRÖYER 666 日本初上陸について思う

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Text●Kiyoyuki Watanabe
Pix●Yuzi Okumura
    (except ※)

 オーストラリアのブラック/スラッシュ・メタル・バンド、DESTRÖYER 666。’26年1月下旬に初来日公演を行なった彼等だが──その公演日が押し迫った1月中旬のある日のこと、とあるバンドのヴィザが下りないため、来日が中止になったとの旨のつぶやきが、招聘元であるEVPのSNSに投下された。バンド名が明かされない初報の段階では色々な憶測が囁かれたが、私は真っ先に、DESTRÖYER 666なんじゃないか…と想像してしまった。


 何故かというと、彼等はかつて’19年に、中心人物であるK.K.ウォースラット<Vo,G>の舌禍によって、ツアーが中止になった“前科”があるからだ。結果的に来日中止になったのは全くの別のバンドで、DESTRÖYER 666は滞りなく初来日を果たしたのだが、常にちょっと危険なイメージを伴う彼等が、無事に日本初上陸を果たしたのは、やはり奇跡的だったと思えてならない。

▲K.K. Warslut<G,Vo>

 ここでまずは、K.K.の歩みを振り返ってみよう。彼がメタル・シーンに最初に登場したのは、’90年代初頭のこと。出身国オーストラリアのブラック・メタル・バンド、CORPSE MOLESTATIONのギタリストとしてだった。北欧では、いよいよブラック・メタルのセカンド・ウェイヴが隆盛しようという時期だが、当時の彼が直接的に影響を受けたのは、BEHERITやBLASPHEMY、あるいはSUFFOCATIONであるらしく、コープス・ペイントこそしているものの、CORPSE MOLESTATIONのサウンドは、グラインド色の強いダークなブラック・デスであった。

▲『HOLOCAUST WOLVES OF THE APOCALYPSE』(’09)/CORPSE MOLESTATION (K.K.在籍時のデモ音源などを収めるコンピ

 このバンドが発展・改名し、BESTIAL WARLUSTが誕生。’94年、バンド名通りのベスチャル/ウォー・ブラック・メタルを体現した名盤として、今なお一部マニアから絶大な支持を得ているファースト・フル『VENGEANCE WAR ‘TILL DEATH』を世に送り出す。同時期、これと並行してK.K.は、BESTIAL WARLUSTで採用されなかった自身の楽曲を具現化するためのソロ・プロジェクトの準備に着手。しかし、同年末にBESTIAL WARLUSTを脱退することになり、結局そのプロジェクトがメイン・バンドへと昇格することになる。これが、DESTRÖYER 666結成の経緯だ。

 ちなみに、DESTRÖYER 666のデビューEP『VIOLENCE IS THE PRINCE OF THIS WORLD』(’95)に収録されている「Song For A Devil’s Son」、「The Eternal Glory Of War」の2曲は、もともとはBESTIAL WARLUST用に書かれた楽曲だそうだ。

▲『VIOLENCE IS THE PRINCE OF THIS WORLD』(’95)/DESTRÖYER 666

 このように、K.K.ウォースラットはオージー・ブラック・メタル・シーンの黎明期を知る貴重な生き字引であり、また、“昼間の仕事”を持ちつつも30年以上に亘ってバンド活動を継続させている熱意の持ち主としても、多くのブラック・メタル・ファンから敬意を払われている。だが、同時に彼を語る上でどうしても避けて通れないのがその“思想”だ。

 最初に記した’19年のキャンセルの一件について話題を戻すと──この時に中止となったのはオーストラリアとニュージーランドでのツアーで、直接の原因は、彼が過去のショウで人種差別や女性蔑視発言をしたことを受けてのものだった。K.K.はこれらに関して反論しており、例えば東アジア系の容姿を侮蔑する“Chink”という語を使ったとされている件に関しては、美人を表わすスラング“chick”の聞き間違いであると主張。また女性蔑視に関しては、DESTRÖYER 666のアルバムで女性ミュージシャンとコラボレーションしていること(イギリスのデス/ブラック・メタル・バンド、ADORIORの女性ヴォーカリスト、ジェイデッド・ラングスが、これまでに2曲の歌詞を彼等に提供している)を示し、これまた否定している。

▲ADORIOR

 他の批判に対しても彼なりの言い分はあったのだが、ちょうどニュージーランドでクライストチャーチ・モスク銃乱射事件(イスラム教徒に対するヘイトクライム)が起こった直後であったため、K.K.の言動は激しい反発を招き、結局のところツアーは中止に追い込まれたのだった。


 いや──K.K.に対する嫌疑は、この時に始まったものではない。実は’12の段階で、イスラム系移民への嫌悪をはっきりと発言しているし、所謂“MeToo”運動や現代のジェンダー観を揶揄することも、頻繁に行なっていた。そういった姿勢のせいか、DESTRÖYER 666の歌詞にも厳しい目が向けられ、例えばローマ建国神話に登場するロムルスとレムスの双子を題材として扱った際には、古代の神話を自身の主張に流用する極右バンドと同様の意図があるのではないかと指摘されたこともあった。

 日本人からすると、こうした警戒は牽強付会にも思えるが、反ユダヤ/白人至上主義を掲げるメロデス・バンドとして悪名高いARGHOSLENTが、同様の表現方法を採っているのを見るに、あながち根も葉もないこととは言えないのだろう。そして何よりも、K.K.の交友関係に白人至上主義思想のミュージシャンが含まれていることが、彼への嫌疑に拍車をかけた。


 ’97年、K.K.は本名のキース・ベンローズ名義でRAVENS WINGというプロジェクトに参加している。そこには彼の他に、同郷のFORTRESSのリーダーであるスコット・マクギネス<vo>と、イギリスのNO REMORSEに在籍したことがあるオーストラリア人ミュージシャン、ナイジェル・ブラウン<G,B>の2人が主なメンバーとして参加しているが、FORTRESSとNO REMORSEは紛うことなく白人至上主義を掲げており、広義のネオナチと目されるバンドである。そうした経歴の2人が参加しているプロジェクトだけに、RAVENS WINGも当然、同様の主張が込められた音楽と見做され、例えば大手音楽オンライン・マーケットのDiscogsでは、企業ポリシーに反するとして取引が禁止されている。

▲『THROUGH THE LOOKING GLASS…』(’97)/RAVENS WING

 そうした交友関係に関しても、どうやらK.K.なりの言い分があるようなのだが、ここでは割愛させていただく。ただ、今回の来日に際して持ち込まれたマーチャンダイズのTシャツには、AI翻訳らしき日本語で「我らの肌に、その証を纏う高く、特別な種族として生まれて」と記されているのを見るにつけ、K.K.も少なからず同調する部分はあるのだろう。

 以上のような背景から、今回の日本公演──ひいてはアジア・ツアー自体が、奇跡的なことのように思えたのだ。アジア蔑視はK.K.の言うように誤解だとしても、多少はアジア人の観衆を舐めてかかるんじゃないか…との危惧もしていた。


 ところがライヴが始まってみれば、舐めてかかるどころか、必死に盛り上げようとする姿勢に、むしろ感銘すら覚えた。今回のツアーはアメリカのブラッケンロール/メタル・パンク・バンド、MIDNIGHTとのカップリングであり、彼等は’10年以来、実に16年ぶりの来日であった。MIDNIGHTについては、前回がABIGAILとのツアーであったことからも窺えるように、そのサウンドは日本のアンダーグラウンド・メタル・シーンとの親和性が高く、実際この日のライヴは、観客の反応を含め素晴らしいものだった。

 MIDNIGHTのショウが終わった時点で、フロアにはある種の満足感すら漂っており、そのあとに登場するDESTRÖYER 666にとっては、かなりハードルの上がった状態だったように感じられた。しかしDESTRÖYER 666のメンバーは、K.K.を筆頭にフロアの熱気を真正面から受け止め、懸命に演奏。中盤、K.K.のアンプがトラブルを起こしてしまい、音が鳴らなくなると、リカバリーすべく必死の形相で駆け回り、最終的には、MIDNIGHTのツアー・ギタリストとして同行していた現EXCITERのダニエル・ディケイを袖から引っ張り出して、アンプの交換をさせる一幕も。

 結局、アンプ交換後もK.K.のギターは本調子とならなかったが、それに腐ることなく、最後はギターをハンドマイクに持ち替えて、正にショウ・マスト・ゴー・オンの精神を貫いていた。なお、ダニエルはMOTÖRHEADの「Iron Fist」とRAZORの「Take This Torch」のカヴァー2曲に飛び入り競演。K.K.と肩を組んで熱唱しまくっていた。

 欧米メディアに時として危険視されるK.K.ウォースラットとは、どういう人物なのか? 南オーストラリアにある人口約2万人の小さな都市ワイアラで若い時代を過ごした、昭和47年生まれの男。彼の思想の本当のところは分からないが、今回のショウを見て感じたことがひとつある。それは彼が生粋のメタル・ウォリアーであるということだ。


 一本気であるがゆえに彼の言動は、現代においては不適切にもほどがあるものとなってしまう。彼が“MeToo”運動や現代のジェンダー観を忌避する様は、さながら新しい価値観に激しく反発する昭和の頑固親父といったところだろうか(上記で敢えて生年を昭和表記にしたのはそれゆえ)。それら全てを肯定的に捉えることは難しいかもしれないが、彼の純粋さは疑いようもない。それが感じられただけでも、今回の奇跡の来日には意味があっただろう。

[SET LIST:22/01/26@新宿WildSide Tokyo]
1.SE~A Breed Apart 2.Wildfire 3.Traitor 4.Never Surrender 5.Guillotine 6.Hounds At Ya Back 7.I Am the Wargod (Ode To The Battle Slain) 8.Sons Of Perdition 9.Trialed By Fire 10.Lone Wolf Winter 11.Iron Fist(MOTÖRHEAD) 12.Satanic Speed Metal 13.Take This Torch(RAZOR)

 そして次は、奇跡の再来日を期待したい。いや、今回まさかのソールドアウト・ショウだったのだから、次回はあながち奇跡でないのかもしれない…。

▲DESTRÖYER 666のFacebookページより。

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