撮影&レポート●奥村裕司/Yuzi Okumura
’25年12月中旬、フォーク/ペイガン/ヴァイキング・メタルに特化したライヴ・イヴェント“Pagan Metal Horde”の第6回が開催された。今回はARKONA(АРКОНА)、NYTT LANDとロシア勢2組がタッグを組み、京都、東京で2公演を実施。ここでは後者の模様をお伝えしよう。

12月15日(月)、新宿のclub SCIENCEで行なわれた東京公演は満員の入り。小さなハコとはいえ──また、ARKONAの日本上陸はほぼ10年振りとかなり久々だったものの、ここのところの来日ラッシュとも言える状況を考えるとこれは凄い。様々な時期、様々な柄のARKONAシャツを着用している観客がかなり目に付いたのも、それだけ熱心なファンが結集したということだ。
一方、シベリアのカラチンスク出身というNYTT LANDはこれが初来日。日本での…というか、日本のメタル・ファンの間での知名度はあまり高そうではないものの、マニアックな存在であるが故に、ARKONA以上に熱狂的マニアがいるのも事実で、今回の来日に際し、「まさか…NYTT LANDが日本で観られるなんて!!」と喜ぶと同時に大変驚き、ライヴ当日になってもまだ信じられない思いでいたファンもいたことだろう。
実のところ、彼等はメタル・バンドではない。そのシャーマニックで土着的なサウンドは、ダーク・アンビエント・フォークとでも言おうか。KORPIKLAANIとコラボしたり、EQUILIBRIUMとツアーに出たりもしているが、決してフォーク・“メタル”界の住人ではない。世間ではペイガン・フォークとも呼ばれ、所謂ネオ・フォーク一派で、当初のコンセプトが北欧神話だったことから、極東ロシア出身にもかかわらず、例えばデンマーク発のHEILUNGになぞらえてか、“ノルディック・フォーク”とカテゴライズされることもあるようだ。ちなみに、NYTT LANDというバンド名は、ノルウェー語で“新しい土地”を意味する。

バンドの本体はアナトリーとナタリアのパハレンコ夫妻によるデュオで、ライヴではそこにドラム担当のアレクサンドル・ロスリャコフが加わり、日本にもその3名でやって来た。アナトリーの担当楽器はターゲルハルパ(弓奏リラ)と口琴(ホームス)、笛(ノルウェーのセルィエ・フレイテ)、パーカッション(スティック・クリック)で、ナタリアはシャーマン・ドラム(ブーベン)と笛(長短のうち、長い方はトゥバ共和国のショール、短い方は所謂リコーダー)を担当し、両名ともメイン・ヴォーカルを務める。


興味深いのは、暗黒儀式の詠唱といったヴォーカル・パートに、ホーミー(ホーメイ/フーメイ)と呼ばれる喉歌(他に極東ロシアではカイ、ハイとも)が頻繁に絡むこと。いや、アナトリーの唸るような喉歌は、NYTT LANDのスピリチュアルな楽曲に欠かせない重要パートで、それはナタリアの甲高いチャントと見事なコントラストを生み出す。
この日のショウでも、やはり主役はパハレンコ夫妻のヴォーカル競演だった。アナトリーはずっと座っているため、どうしてもその左側で幽鬼のように立つナタリアが目立ってしまうが、地の底から響いてくるような彼の喉歌を生体験してしまうと、それこそが肝なのだと感じ入ってしまう。但し、低く唸る喉歌はナタリアも幾つかの楽曲で担当していて、やはり2人揃ってヴォーカルを執ることが、NYTT LANDをNYTT LANDたらしてめているのだとも実感。正直、彼等の音楽のどういった部分がシベリア的なのかよく分からない…というか、そもそもシベリアのトラッドを聴いたことがなかったのだが、モンゴルのホーミーがよく知られる喉歌が、ロシアのシベリア地方でも広く伝承されてきたという事実は何とも興味深い。
さらには、プリミティヴなドラム・ビートが密儀的ムードを大いに高めている点も見逃せない。この日ライヴを初体験して、かねてよりこのデュオがライヴ・ドラマーをレギュラー起用してきた理由がよ~く分かった。装飾音など同期音源を駆使し、サンプル音を出すためか、アレクサンドルはパッドを叩くこともあるようだが、文字通りの“生”ドラムがあってこそ、原初的衝動を呼び起こされるような感覚が味わえるのだ。

照明は常にほの暗く、真っ赤なライト一色に照らされたとて、ステージ上で何か起こっているのかよく見えないことがしばしば。きっとそれも、神秘的かつ儀式的なムードを高める戦略のひとつと思われる。アナトリーとナタリアがいずれも、フリンジ状の装飾で顔を覆い、表情が全く読み取れないのも、同様の意図が込められているのだろう。また、基本あまり立ち位置を変えないナタリアが、時おり感情を爆発させるかのように激しくシャーマン・ドラムを打ち鳴らすことがあるのだが、ステージが狭くて存分に動き回れなかったのはちょっと残念だった。

そんな太古のシャーマンの儀式を思わせるNYTT LANDのライヴだが、ARKONA目当ての生粋のメタル・ファンには少々…いや、かなり奇異に映ったハズ。最初、「何だこれは?」と思ったのが、「いや、面白そう」となったとて、元々この手の音楽に入れ込んでいなければ、そうした興味もそう長くは続くワケもなく…。曲が終わったあと、呆気にとられたのか歓声が上がるでもなく、何となく拍手してイイのかも戸惑っていると、奇妙な静寂の中、次の曲が始まる…といった場面も何度かあった。
今回、彼等は1時間を越えるパフォーマンスを行なったのだが、開始から15~20分も過ぎると、「いったい何を見せられているんだ?」との思いに到ったような観客がチラホラ。中には立ったまま寝そうになっているメタラーも? ただそれは、呪術的詠唱による催眠効果が大きかった…とも考えられるが。

そういえば、事前に音源だけを聴いていた時は、アナトリーとナタリアの唸り節を「(仏教の)読経みたい」なんて思うこともあった。同様ように感じていれば、まぁ良くも悪くもだんだん眠くなってきて不思議はない。だが個人的には、2人がまとう民族衣装とただならぬ佇まい、それぞれが演奏する古楽器各種、時にエキセントリックな動きを見せるナタリア…などなど、ライヴの現場ならではの“魅せる”要素のあれこれにグイグイ惹き付けられ、70分弱はあっという間に感じられた。
来日前に『進撃の巨人』の主題歌「心臓を捧げよ!」をカヴァーしたり(進撃ファンには刺激が強過ぎるアレンジになっていたが…)、来日中に和太鼓カフェを訪れたりと、日本文化に強い思い入れがあるという彼等。今から次回来日にも期待したい。
[SET LIST:15/12/25@新宿club SCIENCE]
1.Voluspa (Adr Burs Synir) 2.Ritual 3.The Fires Of Ragnarok 4.Medved 5.U-Gra 6.Flu Solo 7.Risu Raknar 8.Ragnarok 9.Rig 10.Torem 11.Blood Of The North 12.Nord 13.Hakas


続いて、20分ほどのセット・チェンジを挟み、午後8時ちょっと過ぎにARKONAのショウがスタート! 前回来日は’16年1月だったから、もしかしたらその間にファン層がガラリと変わってしまっている可能性も…? いや、この集客を見る限り、その人気は根強い上に、しっかり新規ファンも獲得しているようだ。来日メンバーは、絶対的フロントマンのマーシャ・スクリーム<Vo>以下、セルゲイ・ラザール<G>、ルスラン・クニャズ<B>、アレクサンドル・スミルノフ<Ds>という4名。前回来日時からはドラマーが交代しているが、フロントの3人が’03年(結成の翌年)よりずっと不動なのは強調しておきたい。

尚、バグパイプ(ドゥダ)など各種民族楽器を操るヴラヂーミル・ヴォークは来日せず。メンバーに確認したところ、別に脱退したワケではなく、ロシア国外のライヴ/ツアーには基本参加しないから…とのことだった。あと、音楽以外の事業で忙しいといった事情も耳にしたことがある。まぁ、今どきはそういったスタンスのメンバーがいてもそう珍しいことではない。勿論、ヴラヂーミル入りのライウも観てみたいが、今回のライヴに関して言えば、彼抜きでもその不在を忘れるぐらい──いや、元々いなかったかのように、4人編成のARKONAにどっぷり浸りきってしまった。
とにもかくにも、マーシャの存在感が凄過ぎる。民族調のチュニックをまとってはいるものの、それはごくごく簡素で、華美な“ステージ衣装”で着飾っているのとはまた違い、飽くまで自然体が彼女流。それなのに、ステージに立っているだけで、実際の体格よりもずっと大きく見えるのだ。マイク・スタンドを掴み、髪を振り乱しながら激しくスクリームすれば、もうみんな心奪われること請け合いだ。今回はステージが狭く、自由に動き回ることは叶わなかったが、それでも超アクティヴに感じたのは、それだけエネルギーを全開放射しまくっていたからに他ならない。

また、そのマーシャの右側でヘドバンしながらギターを掻き鳴らし、頻繁にオーディエンスを煽っていたセルゲイと、その反対側で黙々と演奏しているようで、実は熱のこもったプレイ・スタイルのルスランが、それぞれ良い仕事をしていたことも見逃せない。ついついマーシャのオーラに釘付けになってしまいがちだが、時に自らを鼓舞するかのようにベースを抱え上げたりするルスランの熱さにふと気が付いて、「おおっ…」となった人もきっといたかと。


ただ、今のARKONAに初期のようなフォーク/ペイガン路線を過度に期待していたとしたら、「何か違う…」と思ってしまうかも。そう、彼等はこの10年弱で音楽性に明らかな変容を遂げていた。’16年11月──前回来日からしばらくしてリリースされた『ВОЗРОЖДЕНИЕ』は、同名デビュー・アルバム(’04)のリレコ作品で、言うなればそれをひとつの区切りとして、次作『ХРАМ』(’18)より新たなフェイズに突入していたのだ。
いや、その兆候は’14年発表の第9作『ЯВЬ』でもう提示されていたとも言える。楽曲の壮大さと重厚さがより際立つ同作は、もはやARKONAがフォーク/ペイガン・メタルというカテコリーに納まりきらなくなったことを強烈に主張していた。『ХРАМ』については、そのオープニング・チューン…というかイントロ「Мантра (Интро)」に、NYTT LANDのアントニーが客演していたことも特筆しておきたい。両者にはそんな接点もあったのだ。

そして──続く『КОБЬ』(’23)にて、もっと内省的な傾向を強め、彼等は殆どアトモスフェリック・ブラックといった領域へと到達する。今回、イントロ「Изречение. Начало」から「Кобь」、次いで「Йди」と、情念たっぷりな『КОБЬ』収録曲の連打でショウがスタートしたことで、何だか戸惑ってしまった…という初期からのファンもいたかもしれない。事実、もしフォーキーなパートで暴れる気マンマンでいたら、重厚壮大ではあるものの、鬱々としたヘヴィ・チューンが延々と続くことで(「Кобь」は7分強、「Йди」は12分に迫る)、完全に出鼻を挫かれてしまうからだ。

実際のところ、序盤はフロアの盛り上がりがあまり芳しくなかった。もっと楽しみたいのに、どうも没入しきれない…といった思いが、そこに重苦しく渦巻いている。よって、時々マーシャとセルゲイが「ヘイ! ヘイ! ヘイ!」と声出し&フィストバンギングを促したところ、それで徐々にみんなのテンションが上がっていき、『ЯВЬ』(’14)から約7分半の「На Страже Новых Лет」と13分台の「Явь」、『ХРАМ』から約10分の「Храм」と、長尺曲が続いた中盤を経て、初期からのフォーク/ペイガン色の濃い『ГОЙ, РОДЕ, ГОЙ!』(’09)表題曲が始まった瞬間、この日一番の大歓声が沸き上がった。「Гой!」「Роде!」「Гой!」と叫ぶマーシャのシャウトにも、さらに力がこもる!!

そうなれば、’11年作『Слово』からのラスト2曲──「Заклятие」「Зимушка」も、近作からのナンバーより分かり易い曲調なのもあって大いに盛り上がり、結果的に約70分のショウは“終わり良ければ総て良し”といったムードの中、盛大に幕を閉じた。初期4作から1曲もプレイされなかったのは残念だったが、それは取りも直さず、とっくに彼等が“次”のフェーズで闘っていることの証左でもある。
哀哭に満ちた「Зимушка」の最後をエモーショナルな独唱で締め括ったマーシャが、ステージを去る前に放った「Keep your flame!」を胸に、次は10年も空けずに戻って来てくれることを祈りつつ、これまた再来日を楽しみに待ちたい…!!
[SET LIST:15/12/25@新宿club SCIENCE]
1.Изречение. Начало(SE) 2.Кобь 3.Йди 4.На Страже Новых Лет 5.Явь 6.Храм 7.Гой Роде! Гой! 8.Заклятие 9.Зимушка 10.Оутро(SE)
