Report●Kiyoyuki Watanabe
Pix●Yuzi Okumura

カナダのデス・メタル・モンスター、CRYPTOPSY──ちょうど2年振りの来日である。2年前といえば、当初彼等とNAPALM DEATHの公演日がバッティングしてしまうといった事態が勃発するも、招聘元の尽力とバンドの協力により、急遽日程が変更されるという、極めて稀な神対応が取られたことが思い出される。今回の日程は、’25年12月11&12日の2日間で、裏ではTOOLやMOON SAFARIといったアーティストの来日公演もあるにはあったが、前回のNAPALM DEATHほどファン層が被ってはいなかったため、ファンの多くは心置きなくCRYPTOPSYのライヴに参加出来ただろう。
初日となる11日は、サポート・アクトとして、まず国産デス・メタルの大ヴェテラン、DEFILEDが、続いて英国から参戦したINFESTED ANGELが登場した。活動歴30余年を誇り、数々の大舞台を経験してきたDEFILEDは、さすがの安定感。ストレートなデス・メタルのようでいて、実は全然ストレートでないヒネったサウンドは、正にスルメ系といったところか。

一方のINFESTED ANGELは、結成6年目、’25年初頭にファースト・フル『THRENODIES TO ETERNAL DESPAIR』をリリースしたばかりの新進ブラッケンド・デス・メタル・バンド。’90年代中期頃のバンド群を彷彿とさせるダークなムードが持ち味で、将来を嘱望されている。DEFILEDと比べてしまうと、ライヴ・アクトとしてはまだ経験不足であることは否めないが、フロアからは好意的に受け止められていた。今後の躍進に期待したい。ちなみに、2日目はINFESTED ANGELに加えて、大阪出身のCRYPTIC REVELATIONと、タイのPATHOLOGICAL SADISMがサポートの役目を務めた。

さて、いよいよメイン・アクト、CRYPTOPSYの出番だが──今回のツアーは“All So Vile”と題され、事前の告知では、名盤セカンド・フル『NONE SO VILE』(’96)の完全再現に、最新作『AN INSATIABLE VIOLENCE』(’25)からの楽曲をプラスしたセットが披露されると謳われていた。が、結論から言うと、『NONE SO VILE』の全曲演奏は行われなかった。同作に収録された全8曲中、この日演奏されたのは6曲だけ。比率としてはかなり高いが、前回来日時も5曲演奏されたことを思えば、特別多過ぎるというワケでもない。
これに関しては、やや肩透かしを喰らったという思いを抱いてもおかしくないが、終演後にフロアで不満を口にしている人はついぞ見かけなかった。つまり、『NONE SO VILE』全曲から2曲欠けていたことなど些細に思えるほど、この日のライヴは充実していたのだ。尚、この日のセットリストに関しては、ネット上などで別のモノが出回っているケースが見受けられるが、実際に演奏された曲目は、本記事の最後に記載された通りである。

ショウはまず、『NONE SO VILE』の名曲「Slit Your Guts」からスタート。SEとしてベートーヴェンのピアノソナタ「月光」を挟んで、新作からの「Until There’s Nothing Left」へと続いていった。この冒頭2曲はやや音量のバランスが悪く、舞台下手に立つクリスチャン・ドナルドソンのギターの音が引っ込んしまい、リフが聴き取りづらく感じられた。観ている場所によっては、マット・マギャキーのヴォーカルが聴こえづらかったという意見もあったので、フロアのどこに立つのかが関係していたのかもしれない。ともかく、ショウ開始時点のサウンド・バランスは決して褒められたモノではなく、ひたすらにフロ・モーニエの超人的なドラムだけがくっきりと際立って聴こえていたのだった。




ここで話は脇道に逸れるが、CRYPTOPSY公演の1週間ほど前、アメリカのテクニカル・デス・メタル・バンド、ORIGINとスウェーデンのデスラッシュ・バンド、DEFLESHEDのカップリング来日ツアーが行なわれていた。ORIGINのジョン・ロングストレスとDEFLESHEDのマッテ・モーディンは、共にブラスト・ビートを駆使するメタル界屈指のドラマーとして名を馳せており、これにフロを加えれば、短期間のうちに3人の名人芸を目の当たりするという貴重な経験が得られたのだった。(ちなみに、CRYPTOPSYのショウ初日には、DEFLESHEDのベーシスト兼シンガー、グスタフ・ヨルデの姿もあったそうだ)
その3名は、いずれもブラストの速さと正確さの点では優るとも劣らない腕の持ち主だが、同時に各人が異なる強烈な個性も持ち合わせてもいる。グラヴィティ・ブラストの名称を広く知らしめたドラマーの1人であるジョンは、アルバムではテクニカル過ぎて、メカニカルにも響くが、ライヴでは意外にも軽やかで、ブラストにもグルーヴを感じさせてくれた。マッテは実際のスピード以上にスピード“感”を生み出すことに長けており、実に爽快。これに対しフロは、多彩な引出しを持ち合わせ、速い中にも表情豊かなプレイを身上としている。高速かつ複雑なフレーズが単なる技巧披露にならず、ドラマ性の演出に直結しており、まるでドラムがリード楽器として曲を牽引しているかのような印象すら受ける。
話題をこの日のライヴに戻すと、ショウ開始直後、ギターの音があまりよく聴こえず、ドラムばかりが目立つ状況下にあっても、多くの人がライヴに惹き込まれていった理由は、正にそこにあるのではないだろうか。フロのドラミングからは、ただ速いだけでなく、人を熱狂させるに足るパッションが感じられるのだ。幸いサウンド・バランスは、途中からは改善傾向にあり、『NONE SO VILE』からの「Benedictine Convulsion」などではクリスチャンのギター・ソロをしっかり堪能することが出来た。欲を言えば、「Phobophile」(『NONE SO VILE』収録)のオリヴィエ・ピナールによるベース・イントロが、もこもこして不明瞭だったのも是正して欲しかったが…。


この日、披露された楽曲は全部で11曲。前回来日時のようなドラム・ソロ・タイムはなく、アンコールのために一旦引っ込むといった演出もなく、純粋に楽曲の演奏のみで構成された60分弱だった。正にブルータルの形容に相応しい濃密さと言える。
そんな中で良いアクセントになっていたのは、曲間に挟まれたいくつかのSEだ。「Serial Messiah」(’94年『BLASPHEMY MADE FLESH』収録)のイントロ『ブレインデッド』(’92)や、「Crown Of Horns」(『NONE SO VILE』収録)の『エクソシスト3』(’90)、「Orgiastic Disembowelment」(『NONE SO VILE』収録)のアウトロの『死霊のはらわたIII/キャプテン・スーパーマーケット』(’92)といった、アルバムにも収録されている映画からの引用も勿論使用されていたが、ライヴのために新たに用意された素材も多かった。それは、上記したようにベートーヴェンの「月光」であったり、あるいは短いインダストリアル・ノイズ調のモノであったり、音声サンプリングのループであったり、様々な素材が用いられていた。


どの曲でも常に高いテンションを求められるCRYPTOPSYのショウは、ややもすると、体力的にも集中力の面でも疲弊しがちだが、これらSEの効果的な使用もあって、最後までフロアの高揚感は保たれ続けていた。殊に、『エクソシスト3』の悪魔の咆哮が響き渡った時のフロアの歓喜と、それを呼び水とした爆発的な盛り上がりは忘れ難い。バンドの目論見通りの見事なショウ運びと言えるだろう。
冒頭、CRYPTOPSYのことをデス・メタル・モンスターと評したが、このモンスターは単なる猛獣ではない。知性と凶暴さを兼ね備えた最強のモンスターなのである。そんなことを思い知らされた一夜だった。

最後に──今回の物販の中で特に目を惹いたTシャツ2種についても触れておきたい。ひとつは『NONE SO VILE』をもじった『NONE SO CUTE』柄、もうひとつは最新作収録曲「Dead Eyes Replete」をモチーフにしたデザインだ。ともにアニメ調の絵柄で、前者はアルバム・ジャケットの人物がそのまま可愛いキャラに置き換えられ、後者はショットガンを構えた少女がピンクでプリントされている


アニメ調のメタルTシャツ自体は、他に例がないワケでもないが、CRYPTOPSYのようなブルータル・デス・メタル・バンドが、敢えてやるところがユーモラスで面白い。また後者に関しては、曲中の歌詞“Nurture this tiny creature / They’ll be idolized by all”に呼応していると考えれば──“tiny creature”がアイドルの少女とも小さなモンスターともとれるが故に、すこぶるセンスよく思えてくる。
というワケで、先程の結語を訂正させて頂こう。CRYPTOPSYは知性と凶暴さと…さらにユーモアを兼ね備えた最強のモンスターなのである。

[SET LIST:11/12/25@渋谷WWWX]
1.SE~Slit Your Guts 2.Sonate Für Klavier Nr.14 Cis-moll@Beethoven(SE)~Until There’s Nothing Left 3.SE~Serial Messiah 4.Dead Eyes Replete 5.SE~Benedictine Convulsions 6.SE~Graves Of The Fathers 7.SE~Godless Deceiver 8.SE~Crown Of Horns 9.SE~Phobophile 10.Orgiastic Disembowelment 11.Malicious Needs~Outro:Sonate Für Klavier Nr.14 Cis-moll@Beethoven(SE)