Posted On 2025年12月3日

VEKTOR 2025年来日公演ライヴ・レポート

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Report●Kiyoyuki Watanabe
Pix●Yuzi Okumura

 ’25年10月中旬、米国産プログレッシヴ・スラッシュ・メタルの雄、VEKTORによる2年ぶり3度目の来日公演が行なわれた。’13年の初来日から’23年の2度目の来日まで10年かかったことを思うと、今回の2年と言うスパンは実に短い。しかも、その間に新作の類がリリースされたワケでもないことを考えると、タイミング的に集客面でちょっと厳しいのではないだろうか…という思いが少しよぎった。

 なにしろ今年の10月は、スラッシュ・メタル・ファンにとって嬉しい悲鳴のあがる月だったのだ。月初のEVILE公演に始まり、中旬開催の“LOUD PARK 25”ではケリー・キングやTHE HAUNTED等が来日。そして、同週末にこのVEKTORジャパン・ツアーが開催と、とにかくライヴ・イヴェントが目白押し。出来ることなら全部観たいと思うのが人情だが、皆が皆そうもいかなかったことだろう。様々な事情から、どれを観るか選ばざるを得ないという人も多くいたのではないだろうか。

 ということで、冒頭のような余計な心配をしてしまったのだが…。実際、蓋を開けてみると、そんな杞憂をはるか彼方へ吹き飛ばす、驚くほどの盛況ぶり。VEKTORのことを心から愛するファンがこれほど集まったことは、バンドを大いに勇気付けたに違いない。

 さて、10月17日は日本公演の初日にして、約1ヵ月続くアジア/オセアニア・ツアーの初日でもあった。ちなみに──2年前の来日公演後、バンドは一切のライヴ活動を行なっていないので、’23年10月に日本で終わった前回ツアーが、それから2年後を経てまた日本から再開されるという、我々にとっては何か特別な思いが募る結果となった。

 ともあれ──そんなショウの開幕一発目に選ばれたのは、ファースト『BLACK FUTURE』(’09)の1曲目「Black Future」。スタート地点に立ち戻り、再びここから始めようという彼等の意思を感じさせる選曲だ。そこからサード『TERMINAL REDUX』(’16)の「LCD (Liquid Crystal Disease)」、セカンド『OUTER ISOLATION』(’11)の「Fast Paced Society」、そして再びファーストの「Destroying The Cosmos」と続け、まずはバンドの歩みを駆け足で振り返ってみせてくれた。

 メンバー4人は前回来日時から異同ナシ。デイヴィット・ディサント<G,Vo>を中心に、エリック・ネルソン<G>、スティーヴン・クーン<B>、マイケル・オールソン<Ds>は’20年以来不動だ。ハイピッチ・スクリームと複雑なギター・プレイを両立させるデイヴィットがマイク・スタンドの前から動けない分、エリックとスティーヴンが頻繁に立ち位置を変えてフロアを煽る。エリックは積極的に観客とのコミュニケーションを図りつつも、デイヴィットに負けず劣らずテクニカルなギター・プレイを披露。

▲David DiSanto<G,Vo>

▲Erik Nelson<G>

▲Stephen Coon<B>

▲Michael Ohlson<Ds>

 力強い指弾きベースを操るスティーヴンは、その巨躯ゆえに歩き回るだけでも迫力があるが、表情はシャイに見えて微笑ましい。背後に陣取り安定したリズムをキープするマイケル含め、メンバー間の良好な状態を感じさせてくれ、この4人で制作されるであろう新作アルバムが待ち遠しく感じられる。

 そもそも、本来このツアーは新作のリリースに伴って行なわれるハズのものであった。ネタ晴らしをすると、前回来日時、新作リリースを2年後に計画していたことで、じゃあ日本からそのツアーを始めようかと、早くからライヴ日程が決まっていたそう。しかし、新作の制作が大幅に遅れてしまい、ツアーだけが先行する形で実施されることとなったのだ。

 MCでデイヴィットは、自分達がもう長いことアルバムを出していないと、いささかバツが悪そうに述べたあと、新曲を演奏すると観客に伝える。しかも、まだ誰も聴いたことがない曲だと付け加えると、当然のことながら、フロアは大きく沸いた。正真正銘のワールド・プレミアとなった曲のタイトルは「Skeptic’s Eye」。前半は彼等らしいヒネったリフとミドル・テンポで進んでいき、中盤からギター・ソロを交えつつスピード・アップ。そして再びミドルへと戻ってくる展開を持つ、5分強ほどの楽曲だ。彼等にしては比較的コンパクトにまとまったタイプの曲で、ここからニュー・アルバムの全体像を占うのは難しいかもしれないが、いずれにしろレコーディングを経てどう仕上げられるのかが楽しみだ。

 続いてデイヴィッドは、前回公演を観に来ていた者はいるかと問いかける。かなりの人数が反応を返すと、ではその時やらなかった曲を演奏しようと言って、ファースト収録の10分を超える大作「Dark Nebula」を始める。彼等のナンバーの中でもかなりプログレッシヴ寄りで、メジャー・コードを交えた中間部のスリリングかつ壮大な展開は実にユニーク。ヘッドバンギングせずに、じっくり聴き入っているオーディエンスも多く見受けられた。

 ここからショウはラストに向けて加速していく。コーラス・パートで合唱が巻き起こった「Charging The Void」(『TERMINAL REDUX』収録)、この日のベストに挙げる者もいた「Venus Project」(『OUTER ISOLATION』収録)、そして曲名通り高揚感が宇宙的に加速していく「Accelerating Universe」(『BLACK FUTURE』収録)で本編は締めくくられ、アンコールにはひたすら爆走する「Tetrastructural Minds」(『OUTER ISOLATION』収録)が披露された。

 全10曲でちょうど90分。始めから終わりまで一瞬たりとも弛緩することない、終始スリリングなプレイに満ちたショウであったため、体感時間はもっと短く感じられたほどだった。

 なお、翌日の東京2日目の公演ではセットリストを大幅に変更し、なんと6曲も入れ換えたそうだ。こちらでは「Cosmic Cortex」や「Outer Isolation」といったセカンド・アルバムの大曲群や、「Collapse」と「Recharging The Void」をサード・アルバムの収録順通りに並べる流れなどが披露されており、2日間とも観たファンは大いに満足したことだろう。

 勿論、大阪公演も東京2日間とはまた異なる構成だったそうだ。このように彼等は常にセットリストを変え続けており、1日たりとも同じ構成のショウはない。メタル・バンドとしては珍しいタイプで、このあたりもライヴ・アクトとしての彼等の強みになっているだろう。

 図らずも、1枚のアルバムで2度の来日を遂げる結果となった今回のツアー。幾度となく繰り返されたライヴ演奏の中で、多くの楽曲が磨き上げられたことは想像に難くなく、非常に完成度の高いショウとなった。だが、ここはまだ彼等にとっての頂点ではないだろう。目指すのはさらなる高みか、あるいは宇宙の深淵か。プログレッシヴかつテクニカルなSF的スラッシュ・メタルの行きつく先を、刮目して見届けたい。

[SET LIST:17/10/25@高円寺HIGH]
1.Intro:Main Title@PREDATOR OST(SE)~Black Future 2.LCD (Liquid Crystal Disease) 3.Fast Paced Society 4.Destroying The Cosmos 5.Skeptic’s Eye 6.Dark Nebula 7.Charging The Void 8.Venus Project 9.Accelerating Universe [Encore]10.Tetrastructural Minds

  

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