Text▲Yama(ETHEREAL SIN/Evoken de Valhall Production)
except※ by Kiyoyuki Watanabe
Pix▲Yuzi Okumura
Hello, Dark fellow soldiers……I’m Yama from ETHEREAL SIN!!!
…というワケで(笑)、ETHEREAL SINのYama Darkblazeだ。

過日、私が代表を務めるEvoken de Valhall Production(EVP)主催の“Black Sun Rising Fest”が、東京は渋谷にて行なわれた。日本では珍しい、ブラック・メタルに特化したこのライヴ・イヴェント、CARACH ANGRENがヘッドライナーというのもあり、開催前は「マニアック過ぎない…?」なんて心配もされたが(笑)、かの“LOUD PARK 25”の前日にあたり、言わばその前夜祭的な位置付けで捉えらてもらってもいたのか、いざフタを開けてみたら実に盛況で、当日券を含め完売御礼に…!
そこでこの機に“Black Sun Rising Fest”を振り返り、開催に到る経緯や裏話なども交えたコラムをここにお届けしよう。参加された諸氏はもちろん、惜しくも参加出来なかった方々にも、是非とも楽しんでいただきたい。

さて──“Black Sun Rising Fest”について話す前に、EVP主催イヴェント“Tenebrae Solmnis”について触れておかねばならないだろう。’16年に第1回(ANAAL NATHRAKH初来日公演)を開催し、以来、ARCTURUS、1349、GORGOROTH、WATAIN、DER WEG EINER FREIHEIT、IMPERIAL TRIUMPHANT、FORGOTTEN TOMB…などなどを招聘し、ご好評をいただいている“Tenebrae Solmnis”は、EVPならではのブラック・メタルに特化した来日企画シリーズだ。今回の“Black Sun Rising Fest”は、実はそのVol.13でもあったのだが、当初は全く違う形での開催が予定されていた。
そう、元々はとあるスウェディッシュ・ブラック・メタル・バンドの来日予定があり、そこにスペシャル・ゲストとしてオランダのシンフォ・ブラック、CARACH ANGRENも帯同することになっていたのだが、そのスウェーデン産バンドが、日本を含むアジア・ツアー全体の延期を決定。それにより、企画自体が成立しなくなり、そこで急遽、CARACH ANGRENをヘッドライナーに立て、仕切り直すこととなったのである。
結果、新たにサポート・アクトを探すことにもなったが、色々なバンドをあたったところ、シンガポールのウォー・ベスチャル・ブラック、IMPIETYの起用が決まった…ものの、この時、彼等から出された条件は、2日間の公演だった。そこで、IMPIETYをヘッドライナーに据えて“Tenebrae Solmnis Vol.13”を10月11日に行ない、それとは別に、CARACH ANGRENがヘッドライナーで、IMPIETYがサポート・アクトを務める“~Vol.14”を、翌12日に行なう、2Daysイヴェントを画策することとなった。
会場は渋谷のGARRET udagawaを2日間おさえ、Vol.13には、サブ・ジャンル的な親和性の高さを考え、国産スラッシュ/ブラッケンド・ロールの大御所、ABIGAILに出演を依頼、一方のVol.14には、拙バンドであるエレジアック・ブラックのETHEREAL SINがサポートを務める…という形でチケットの販売を開始した。
ところが、これが思わぬ事態に…。当該公演チケット販売サイトであるEVP4Uは、事前に設定された期間内にチケット売上が目標金額に到達しなかった場合、公演中止となる独自のシステムが導入されており、IMPIETYがヘッドライナーのVol.13は、残念ながらこの基準を満たせず、開催中止となってしまう。
そこで、Vol.13出演予定バンドを全てVol.14に組み込み、元々Vol.14用だった10月12日に“Vol.13(新)”として再設定。会場のキャンセルは出来ないので、元々Vol.13用だった前日は、リハーサルに充てることとなった。
その後、仕切り直しで“Vol.13(新)”のチケット販売を始めたのだが、主催者である私としては、どうもあとひとつ何かインパクトが欲しい…と感じていた折、直前のCARACH ANGREN台湾公演に、アメリカのポスト・デプレッシブ・ブラック、GHOST BATHが帯同していることを知り、ダメ元で日本公演への参加を打診したところ、幸いにも快諾を得る。

ここに到り、“Tenebrae Solmnis Vol.13(新)=CARACH ANGRENのジャパン・ツアー”ではなく、よりブラック・メタルに特化したミニ・フェス形式──新たなイヴェント・シリーズとなることを願い、改めて“Black Sun Rising Fest”なる名称を使用することに。フェスとしての開催へ向け、VIPエリアの配置や、先行物販、再入場可、クローク・システム等の調整を開始したのである。
ところが──残念ながら、9月頭よりシンガポールのヴィザ・システムが変更となり、それにより、IMPIETYの同国在住メンバーの興行ヴィザが間に合わないことが判明。関係各所と密に連絡を取りながら解決策をギリギリまで探ったが、万策尽き、開催直前にキャンセルが確定してしまう。告知を見ていただいた方も少なくなかったと思うが、その穴を埋めるのもあり、他の出演バンドに演奏時間の拡張を要請し、結果的にどのバンドも快く引き受けてくれたおかげで、何とかイヴェントとしての体裁を保てたのは、まさに不幸中の幸いであった

そんな紆余曲折を経て実現した“Black Sun Rising Fest”。主催者として最も頭を悩ませたのが、会場内の導線など細かな点に加えて、イヴェント自体の運営についてである。実は、本フェスはCARACH ANGREN&GHOST BATHのアジア・ツアーの一環として、多少渡航費が安価に出来るとはいえ、欧米からの2組に加えて、新たにオープニング・アクト起用したタイのZYGOATSIS、そして、結局キャンセルとなったがIMPIETYと、海外バンドを4組も招聘することで、実は必要経費だけで400万を超えてしまうことに…。
チケット代から単純算出すると、VIPシステムによる収益を考えても、450人を超える集客がないと成り立たず、しかしながら公演会場であるGARRETは、公式には発表されていないが、主催者目線での実働可能なキャパは250人程度(演者、スタッフ、関係者等含む)ということで──何をどうやっても、最初から赤字が約束された公演だったのだ。
とはいえ、当然ながら限界までチケットを販売する必要はあるから、当日の混雑は必至。会場の作り上、演者が楽屋へ向かう導線は場内に確保する必要があり、VIPエリアへの導線も必要だし、物販への導線、バー・カウンターへの導線も含め、考えることは多く、いくらフェス形式で再入場可とはいえ、出演バンドが全て同一ジャンルなので、そこまで多くの観客が動くとも思えず…で、開催当日まで悩みに悩んだ結果、最終的に「これで」となったのがあの会場内配置&導線だった。
イヴェント当日、会場での混雑状況にご不満をお持ちだった方々には、この場を借りてお詫びしたい。ただありがたいことに、最終的には大入りになったし、公演自体も終始大いに盛り上がり、日本ではなかなか観られない組み合わせでの意義深いイヴェントになったとは自負させてもらっている。では以下に、公演全体の感想を書いていきたいと思う。

■ZYGOATSIS
まず、オープニングを飾ったタイのZYGOATSIS。彼等のギターとドラムは、今年6月に行なわれた“Tenebrae Solemnis Vol.10”──IMPERIAL TRIUMPHANTの東京公演において、サポート・アクトを務めたAMORPHOUS DOMINIONのメンバーでもあり、2人とはわずか4ヵ月での再会となった。ZYGOATSISのサウンドは、メイン・アクト2組とは異なり、よりデスメ・タル色の強いウォー・ベスチャルを志向しており、その点では、IMPIETYが担う予定だった要素をしっかりと埋めてくれたように思う。

1.The Endless Abomination Of Goatsodomy 2.Vengeance Abhorrence And Hateful Armageddon 3.Goatnuclear Azzault 4.Insex Slavement Warfare 5.Altar Of Black Blood(MORBOSIDAD/Altar De Sangre Negra) 6.Unmerciful Warmageddon 7.Evoke The Goatphomet 8.Black-Forced Khaostorms 9.Warhymn 10.Wage War In Blasphemy
■ETHEREAL SIN
2番手は、拙バンドのETHEREAL SIN。本稿の時点で結成より28年となるが、これまでに我々がリリースした音源は78曲あって、実に多様な楽曲を持っているが故に、いつも出演するイヴェントの様々な趣旨に合わせてセットリストを組み替えている。今回は当初、CARACH ANGRENのみのサポートを務めることになっていたため、シンフォ・ブラック色の濃い楽曲を揃えるべく、初期の楽曲も引っ張り出してきていた。実際、当日のオープニング・チューンは、’09年リリースのファースト・フル・アルバム『…THE ABYSS WILL ALSO GAZE INTO THEE』収録の「Mist And The Pagan’s Castle」で──その結果、いつもより幾分シリアスなエレジアック・ブラックを体現出来たように思う。(MCは除く…:苦笑)

1.Mist And The Pagan’s Castle 2.Comes At The Stormy Night 3.Age Of Asura 4.Faraway Scene 5.Setsuna 6.Transparent Twins
■ABIGAIL
続いては、国内ブラックの大御所、ABIGAIL。大御所ながら非常に活発なライヴ活動を行なっているバンドだが、意外にも、EVP公演における出演はこれが初めて。私個人としても、おそらく30年ぶりにステージをシェアした…と記憶している。ちなみに、その当時まだETHEREAL SINは存在せず、前身バンドであるETERNAL FORESTでの対バンだったのだが。彼等ならではの、初期スラッシュ・メタルのエッセンスがふんだんに盛り込まれた原初ブラック・メタルとも言うべきサウンドは、粗削りながら大御所ゆえの安定した演奏もあり、この日一番のグルーヴを感じさせてくれたものだ。

1.The Final Damnation 2.Teen Age Metal Fuck 3.Satanik Metal Fucking Hell 4.Hell’s Necromancer 5.Mephistopheles 6.Metal Bitch Inferno 7.Bloody Japanese Sword 8.Prophecy Of The Evening Star 9.Hail Yakuza – War 666 10.Metal Evil Metal
■GHOST BATH
お次は──ABIGAILから一転して、場内を陰鬱な美で包んだGHOST BATH。これが初来日の彼等は、ポスト・ブラック/デプレッシヴ・ブラックとして名高いが、前述の通り、本当に急遽で決まった出演だったのだ。しかしながら、色々無理を通して呼んだ甲斐のある素晴らしいライヴであった。トリプル・ギターという少し変わった構成ゆえか、美しくも悲しく、時に癒しとなる明るさも見せる楽曲群は、一瞬で観客達の心を掴んだのではなかったか。個人的には、今年のベスト・アクトに数えても良い程のステージで、そのサウンドは本来、もっと広い空間でこそ真価を発揮するのかもしれない。それぐらいスケールの大きなバンドなのだ。いつか是非、ホール規模の会場で次回来日公演を実現させたい。

デニスの絶叫ヴォーカルは、アルバムで聴くと、時として単調と批判されることもあるが、ライヴではかえってそれが魅力となり、まるで言葉にならない思いが叫びとなって溢れ出てきているかのような迫力に満ちていた。3本のギターの絡みも効果的で、デニスがメタル界隈では珍しいテレキャスターを使っている点を含め、シューゲイザーやポスト・ロックとの親和性も感じられた。(※渡辺清之)





1.Thrones 2.Sanguine Mask 3.Hide From The Sun 4.Death And The Maiden 5.Rose Thorn Necklace 6.Convince Me To Bleed 7.The Silver Flower Pt.2 8.Happyhouse 9.Golden Number 10.Burial
■CARACH ANGREN
そして最後に、満を持して登場したのがCARACH ANGRENである。あれだけの存在感で圧倒したGHOST BATHのあとに出演するのは少し荷が重いのでは…という声も聞こえてきたが──いやいやどうして、その堂々たるパフォーマンスは、’13年の前回来日時からさらに磨きが掛かり、パペットを模した演者によるホラー・テーマのシアトリカルなステージングと、派手なシンフォ・ブラック・サウンドは、時にインダストリアルな香りも放ちながら、場内全体をその独自の世界観に引きずり込み、魅了していたように思う。次回は12年も間を空けずに、また日本のファンを楽しませて欲しいものだ。

もう1人の正式メンバーであるアルデック(key,vo)は、バンドの核であるシンフォニック・サウンドを担いつつ、据え置きとショルダー・キーボードの双方を操りながらも、これまた出来る限りステージ上を動き回っていた。サポート・メンバー2人の堅実な演奏力も特筆すべきで、7弦ギターはベースレスであることを弱点と感じさせず、ドラムは極めてタイト。総じて、このイヴェントのトリに相応しいプロフェッショナルなショウだった。(※渡辺清之)






1.Electronic Voice Phenomena(SE) 2.The Ghost Of Raynham Hall 3.The Carriage Wheel Murder 4.The Necromancer 5.Bitte Totet Mich 6.Operation Compass 7.Franckensteina Strataemontanus 8.A Strange Presence Near The Woods 9.Monster 10.The Sighting Is A Portent Of Doom 11.Heretic Poltergeist Phenomena 12.Haunting Echoes From The Seventeenth Century [Encore]13.An Ominous Recording(SE) 14.Lingering In An Imprint Haunting 15.Pitch Black Box 16.Bloodstains On The Captain’s Log 17.Outro:Like a Conscious Parasite I Roam(SE/Excerpt)

尚、余談ではあるが──CARACH ANGRENの’13年初来日公演は、あのMARDUKがヘッドライナーで、TAAKEがセカンド・ビルを務め、我々ETHEREAL SINがサポート・アクトの任に就かせてもらった。6日間連続で、北は仙台から南は福岡までを走り抜ける、実に過酷なツアーだったが、当時の話をCARACH ANGRENの面々と楽屋で懐かしめたのも、実に嬉しい機会となったことを付け加えておきたい。

そんなこんなで、自分で思い描いていた通りに、ブラック・メタルが持つ他ジャンルにはない多様性をまざまざと見せつけることが出来た、第1回“Black Sun Rising Fest”。スタートから6時間にも及ぶ黒き祭典は、無事大盛況のうちに幕を閉じた。いつか第2回が開催されることになったら、より大きな会場をおさえ、今回は紹介出来なかったブラックのサブ・ジャンルのバンドも、ガッツリ取り揃えてお届けしたい。その時を楽しみに待っていて欲しい…!!

