Posted On 2025年10月29日

MORBID SAINT 2025年来日公演ライヴ・レポート

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Report●Kiyoyuki Watanabe
Pix●Yuzi Okumura

 「まさかMORBID SAINTのライヴを日本で観られるなんて…!」 来日公演が決まって以来、多くのスラッシュ・マニアがそう呟くのを耳にしてきた。それもそのハズ、’90年代から’00年代にかけての彼等は、知る人ぞ知るかなりマニアックな存在だったのだから。米ウィスコンシン州出身の5人組激烈スラッシャー、MORBID SAINT。かつてその存在はカルトであり、伝説であった。

 有名どころをひと通り聴きかじったと自負していると、同好の士や先輩リスナーから「じゃあ、お前…コレ知ってるか?」とニヤニヤしながら渡されたり、あるいはラジオ番組で耳にしたり(マニアックだとか言いつつ、実は和田“キャプテン”誠氏の番組ではヘヴィ・ローテーションされていた…!)、あるいは輸入盤店でたまたま手に取ったり、彼等のデビュー作『SPECTRUM OF DEATH』(’90)と出会った経緯は人それぞれだろう。

 いずれにしろ、一度でもそのサウンドを聴いた人は、そのショボいジャケとは裏腹の、圧倒的なスピード&アグレッションにすっかり魅了されたものだった。だが、’90年代半ばにバンドがひっそりと解散すると、時の流れに埋もれてしまい、たまに隠れた名盤として思い出される程度に留まることとなった。

▲『SPECTRUM OF DEATH』(’90)

 そんな彼等が再結成を果たしたのは、’10年のこと。このあたりの経緯は寡聞にして知らなかったが、どうやらSNS上で高まった再評価の気運が後押しとなったらしい。その後、’90年代に制作されたままになっていたセカンド『DESTRUCTION SYSTEM』(’15)、完全新作のサード『SWALLOWED BY HELL』(’24)のリリースを経て、晴れて今回の初来日公演を迎えることとなった。

 さて、ここではその2日目(’25年9月25日)の模様をお伝えするが、定刻になり、イントロのSEが流れると、会場の暗転よりも早いタイミングで、メンバーがさっさとステージに登場。持って回ったような演出は似合わないと言わんばかりに、すぐさま演奏を始める。


 メンバーの布陣は、上手にジム・ファーゲイズ<G>、下手にジェイ・ヴィッサー<G>、中央にパット・リンド<Vo>で、この3名はファースト・アルバムから名を連ねる古参たち。リズム隊は、’10年の再結成直後から参加するボブ・ゼイベル<B>と、’16年に加入したDJバージメール<Ds>。

▲Pat Lind<Vo>
▲Jim Fergades<G>
▲Jay Visser<G>
▲Bob Zabel<B>
▲DJ Bagemehl<Ds>

 『SPECTRUM OF DEATH』にメンバー・フォトが掲載されている古参組は、それと比較すると、一見して同一人物かどうか分からないほど外見が変わっていた。長髪でシャープだったパットは、パッチGジャン(バトル・ジャケット)が映える恰幅のよい坊主頭に、ちりちりロン毛だったジェイは、すっかり白くなった髪を束ねてキャップをかぶり、まるで部屋着のような短パンが印象深かったジムは、ちゃんとした迷彩柄のハーフパンツにと、皆がそれぞれ好い具合に年齢を重ねた姿を見せてくれた。

 演奏はセカンドの表題曲「Destruction System」からスタートする。外見は変わっていても、初期KREATORのミレ・ペトロッツァをダミ声にしたようなパットのヴォーカルは、全く衰えを感じさせない。序盤は「Rise From The Ashes」「Fuck Them All」「Burn Pit」と、最新作から立て続けに演奏される。実は2日間のショウは、用意された演奏曲自体は同じものだったが、それぞれ構成が異なっていた。
 初日が新旧織り交ぜての曲順で組まれたのに対し、この2日目は、後半にファーストの曲を全て固めるというセットが組まれたのだ。そのため、この日の前半の聴衆は体力温存気味で、激しいモッシュなどは控えめ。曲間ではパットがビールを掲げて「カンパーイ、オッパーイ」と、誰に教わったのか分からないが、親父ギャグを連呼して笑いを誘い、会場全体がリラックスしたムードの中でショウは進行していった。

 恐らく、前日から続けて来ている聴衆がそれなりに多かったことも、親密な雰囲気づくりにひと役買っていたのだろう。途中、少々リラックスし過ぎて「Pine Tuxedo」と曲紹介しながら「Bloody Floors」の演奏を始めてしまい、ジムが戸惑うといった場面もあったが、それもご愛嬌。仕切り直して「Pine Tuxedo」が演奏されたあと、今度は「とてもとても古い、MORBID SAINTとして最初に書かれた曲だ」と紹介されて、「Thrashaholic」が演奏される。この曲はアルバム本編には未収録で、自主制作の同名コンピレーション『THRASHAHOLIC』(’12)や、再発された『SPECTRUM OF DEATH』のボーナスとして聴くことが出来る、シンプルなショート・チューンなのだが、フロアからはかなり熱い反応が返ってくる。

 この時点でショウは45分ほどが経過していたが、そろそろ空気も温まってきた頃合いだ。サードの表題曲「Swallowed By Hell」と「Bleed Them Dry」の2曲はつなげる形で間髪入れずに演奏され、いよいよ多少のモッシュも起こるようになってくる。
 パットが「そろそろ『SPECTRUM OF DEATH』が聴きたいか?」と問うと、当然のことながら大歓声が湧き起こるが、「もうすこし我慢我慢」と宥めるようにして、「Killer Instinct」を開始。この曲では、メロディアスなギター・ソロが披露されるが、ファーストとサードの異なる点をひとつ挙げるとするならば、後者の方が、より多彩なギター・ソロを採り入れていることだろう。ソロの多くはジムが、たまにジェイも弾く…といった割合で、2人とも破綻なく弾きコナしていた。

 このあと、事前のセットリストでは、新作からもう1曲「Fear Incarnate」が予定されていたのだが、これを飛ばして、バンドはいったん袖に姿を消す。すると間髪入れずにフロアから“MORBID SAINTコール”が湧きあがり、SEとして「Spectrum Of Death」が流れる中、結局1分も経たずして、メンバーは再びステージ上へと舞い戻ってくる。ショウ開始からちょうど1時間が経過、いよいよここからが本番だ。
 続いて「Lock Up Your Children」が始まった瞬間、溜まりに溜まっていたエネルギーが弾け飛ぶような勢いでモッシュ・ピットが形成される。バンドもそれに応えるように、続けざまに「Burned At The Stake」を演奏。謝辞のMCを挟んで「Crying For Death」と、息をつく暇もない。新作の曲を中心とした前半も、決して悪くはなかったのだが、ファースト収録曲による後半部は、やはり格別だ。どの曲も、バンドとオーディエンスの双方にとって血肉になっていることがはっきりと感じられ、その相乗効果がライヴをさらに盛り上げていく。とくに名曲「Scars」では、多くの観客が「Scars!」と叫び、ファスト・パートではサークル・モッシュを形成し、ライヴならではの一体感を楽しんでいた。

 「Beyond The Gates Of Hell」でいったんショウをしめたあと、アンコールとして演奏したもはもちろん「Assassin」と「Damien」の2曲。アルバム中でも、最もスリリングな並びのひとつだ。この3分にも満たない「Damien」の中に、MORBID SAINT流儀のスラッシュの真髄が宿っていると言っても過言ではないだろう。フロアでは、多くオーディエンスが笑顔のままにモッシュに興じていた。


 こうして幕を閉じた日本公演だが、100分に及ぶステージは、バンドにとっても初めての経験だったらしく、終演後は全員がヘトヘトになっていた。それも当然だろう。何しろ100分間ずっと疾走しっぱなしの純正スラッシュ・ショウだったのだから。古参メンバーの3人は50台も半ばを過ぎ、あと数年で還暦というところまできている。バンドとして華々しい成功を収めることは叶わず、言ってみれば人生の酸いも甘いも噛み分けてきたことだろう。にもかかわらず、若い頃に培ったスラッシュ魂だけは、いまだ瑞々しいままなのだ。ショウの最中、パットはMCのたびに何度も「アリガトー」と口にしていたが、彼等がバンドを、音楽を諦めなかったことに対して、こちらからも感謝の念を伝えたい。メタラーたる者、願わくば彼等のように年を重ねていきたいものだ。

[SET LIST:25/09/25@高円寺HIGH]

1,Spectrum Of Death II(SE) 2.Destruction System 3.Rise From The Ashes 4.Fuck Them All 5.Burn Pit 6.Death Before Dawn 7.Bloody Floors 8.Pine Tuxedo 9.Thrashaholic 10.Swallowed By Hell 11.Bleed Them Dry 12.Killer Instinct 13.Spectrum Of Death(SE) 14.Lock Up Your Children 15.Burned At The Stake 16.Crying For Death 17.Scars 18.Beyond The Gates Of Hell [Encore]19.Assassin 20.Damien

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